2020年11月30日月曜日

 高知市で日本人工臓器学会が開催されました

   何時ものことながらもう月末,明日から師走,となってしまいました.ここ数日気温もかなり下がってきてようやくというか早くも冬の気配です.スキー馬鹿としては今シーズンこそ雪不足でないことを願っています.さて,Covid-19は一向に収まる気配もなく,というより第3波になって全国的に感染者数がこれまでを上回る状況が続いています.政府の方針が経済優先から抜け切れず,中途半端のままで,医療界からは医療崩壊がそこまで来ているという警鐘も出ています.兵庫県から大阪市へ通いながら高齢者が多い医療現場で一医師として働いている者として,危機管理においては正念場であると感じています. さて,今月に入って高知市で日本人工臓器学会が現地開催で行われました.高知大学医学部外科教授の花崎先生が会長で,その英断に多くが感謝し,これまでの巣ごもりのうっ憤を晴らすかのように結構の数の参加者があり盛会でした.好天に恵まれ,国宝の高知城も朝の学会前に訪問し,朝の散歩と気分転換になりました.この学会は医師以外の工学系研究者や医療関係者(臨床工学技士と看護師)が会員の半数を占めていますが,多職種連携のセッションも多く,活発な議論が行われていました.報告としては,サテライトで開催された研究会と本会での話題を少し紹介します.

  前者の日本補助人工心臓治療研究会は愛媛大学の泉谷教授(心臓血管外科)が会長で,植込型補助人工心臓(VAD)の適応がいわゆる永久使用(destination therapy, DT)時代になってどう変わっていくのか,というテーマでいくつかの議論がありました.といってもDTはもう何年にも渡って開始前,と言いながら5-6年はたっています.ここに至ってようやく先が見えてきた(来年には始まる)なかで,移植へのブリッジとDTという近くて遠い二つの選択肢の合間にあるbridge to decision やbridge to candidacyへの植込型の応用の話が期待されたのですが,大方の関心はDTが来る,という雰囲気で私の興味は少数派であったようです. 一方ではDTを実際始めるにあたっての種々の課題も改めて浮き彫りにされたと思います. DTについては社会復帰,在宅管理,そして緩和ケアといったことを支援する社会的支援基盤がいまだ未成熟であることが改めて浮き彫りにされたと個人的には感じました.人工臓器学会でも議論しましたが,色んなところで多職種連携と言いながら現実には専門的人材の育成と雇用の面では整備不良感は否めず,コメディカルの積極的関与を支える医療現場(病院)では個人的努力に依存した現状は相変わらずという感じでした. 心臓移植で言えば,レシピエントコーデイネーター(RCT)については既に紹介しているように全国で認定者(学会関係)がたった10人という現状を移植医側が深刻ととらえていないことが問題です.この件については,先月にWeb開催となった心臓移植研究会の役員会でも提案したことですが,VADコーデイネーターという学会認定資格は400人近くの認定者の半数が看護師という現実があるわけです.入院中のVAD患者のケアですが,すべて心臓移植待機患者であり,レシピエントのケアをしているわけでRCTとははっきりと一線を画するものではないと思うわけです.先の日本循環器看護学会で報告したことですが,再度人工臓器学会の多職種連携のセッションで発言したところです.阪大病院看護部からVADコーデイネーターの専従をという訴えがあったことは,かかる状況が心臓移植施設では課題になっていることを示していると思われます.病院長や看護部長の決断が欲しいところです. 背景に看護師不足,という意見があるとすれば,一時代前に比べれば倍近くの看護師を擁している大学病院の言うことではないと思います.

  人工臓器学会は花崎会長の英断で現地開催となってやっぱり対面での会話や議論が大事であるということは感じました.しかし,その後の小児循環器学会や循環器関連学会はすべてWeb開催となっています.感染の第3波が来ている中では,当分現地開催は無理で,開き直ってWeb開催での発表や意見交換の方法を改善することの必要性を改めて痛感します.最近届いた心臓血管外科学会雑誌で, 日本医科大学の新田隆教授は,Web開催やZoom会議ではIT技術を駆使して新たな時代を迎えるべきという趣旨のことを書かれています.そのなかで,Web議論もチャット形式ではかえって要点に絞った議論ができる,というメリットがあると指摘されていたと思います.これまで学会では,えてして無駄な議論や長々と持論を述べて肝心の質問は意味不明といったことが少なくないのです.IT化を進めるなかで,学会等での質問はポイントを絞って,論点整理をして,いい質問をするよう皆が心掛けるようになっていく機会が来たのではと感じます. ということで明日から12月, 師走です.コロナ第3波の真っただ中での年末になりそうですが,この1年世界が大変な危機に見舞われ,中でも医療では崩壊の危機が迫っているという現実を改めて認識し,年越しで忘れると言ことのないようにしたいです.いかにウイズコロナで来年を乗り切るか,頭の整理と発想の転換が改めて必要と思います. なお,病院内のハートチームは皆さんが頑張って何とかスタートし,ハートノートを渡す患者の選択が始まっています. いい雰囲気で進みそうで, 乞うご期待でしょうか.

 写真は高知城です。美しい城壁と立派な天守閣(時間が合わず入れませんでしたが)でした。




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