2013年8月11日日曜日

小児の臓器提供、3例目


立秋が過ぎても猛暑が続いていますが如何お過ごしですか。お盆休み体制に入って世の中何かせわしない雰囲気です。高校野球と世界陸上が始まって、また楽しいドラマが見られそうです。

 さて、少し話題が途切れていましたがここ数日の新聞記事で目についたのは、小児の臓器提供です。二つありました。一つは1週間ほど前でしたか、オーストラリアでご自分の小さなお子さんが脳死となり、臓器提供をされたお母さんの記事です。その前に海外でご自分の子供さんの臓器提供をしたことを日本に帰られて(一時帰国?)お話されたています。先日の記事はその後日談です。ご自分の経験を公表された後、ネットで随分ひどい目に会われたそうです。プールに落ちたのは親の責任とか、心臓が動いているのに臓器をとることを認めるとは、とか大変次元の低いというか人の心まで攻撃するいわゆる書き込み(?)があったそうです。ネットでの中傷や誹謗はどこかの他の国の話かと思っていましたが、身近でこんな情けない、民度が問われることが起こっていることに驚きました。どうして人の善意を理解しようとしないのか、心の問題に踏み込んでくるのか、脳死への誤解、ネットやマスコミの怖さ、など臓器移植に関わって来たものとして気が重くなりました。脳死は医学的事象であり、死亡とするか(法的脳死判定を受けるかどうか)は家族に委ねられている訳です。決して強制ではなく、そこには説得もないことを広く知って欲しいと思います。

 とういう中で、先日長崎大学病院で15歳未満の女児(10歳以上だそうです)からの脳死での臓器提供が行われるという記事です。法律が改正され15歳未満の子供さんで法的脳死判定が家族の承諾で出来るようになって3例目です。富山大では6歳未満でしたが、今回は小学生か中学生でしょう。生前、自分は臓器提供に前向きな話を家族に話されていたそうです。後のニュースで順調に移植が行われたようですし、心臓移植も東大病院で無事行われたとあります。関係者の方々のご努力に感謝しますが、何よりご遺族の皆様の決断に敬意を表します。

 ここで、九州での臓器移植について少し紹介します。今の制度では、日本国内どこで提供があっても、全国を一つの地区とし、臓器の配分は日本移植ネットワークが登録患者さんの適合要件や待機期間などで決めるわけで、九州地区の待機患者さんが優先される訳ではありません。ただ、腎臓は二つあるので、一つはその地区に優先されます。今回も、腎臓の一つは長崎の国立病院で移植されています。他の臓器ではこういう仕組みはありません。一方、心臓と肺では九州地区で移植できる病院は、心臓は九州大学のみで、肺は長崎大学と福岡大学の二つです。今回、肺は東北大学で行われました。米国や欧州では国が広いので地域ごとの優先が行われていますが、日本はそういう状況には至っていません。それは待機患者への公平な配分、待つ方の権利に関わり、例えば今回で長崎大学の肺移植待機患者さんに肺の移植をすると、全国の他の待機患者さんを飛び越えるということになり、それこそ大変なことになります。臓器の取り合いみたいになり、ここはネットワークのなかで決めないと移植医療そのものの信頼が無くなりますし、やろうと思っても出来るわけでもありません。ただ、遠方への移送で時間がかかり臓器の障害が心配されるときは、結果として近くの移植施設での実施もないわけではありません。しかし、その場合もあくまでルールに則って行われるということです。

 なぜこの話を持ち出したかといいますと、先般、小児心臓移植の実施施設の追加認定の会議がありました。小児の心臓移植を実施できる施設は、東から、東大病院、阪大病院、国立循環器病研究センターの三つです。岡山大学病院も九州大学病院も大人だけで認められています。数年来、この小児心臓移植施設の拡大を関係学会で行ってきましたが、先月やっと結論が出ました。東京女子医大と九州大の申請があったのですが、東京女子医大だけが認められました。九州大学は福岡こども病院と連携した申請でしたが、残念ながら今回は認められませんでした。九州地区で小児心臓移植施設を認めることで、九州地区での臓器提供にも後押しとなると期待されていたのですが、個人的には大変残念に思っています。ドナー状況がまだ少ないなかで施設を増やす意味とか、成績の維持、とかの議論があるようですが、これもどちらが先かの話であると思います。とはいえ、沢山の待機患者さんが待つ中で、後発の施設の待機患者さんはどうしても順番が遅れることから、北海道大学も岡山大学もまだ心臓移植が出来ていない状況です。

 小児の臓器提供はまだまだ超えないといけない壁がありますが、徐々にでも進んでくるでしょうし、一人ひとりの提供者とその家族への温かい気配りを大事にすることが求められます。