2015年4月4日土曜日

小児用補助人工心臓、その後



この1月ですが、大阪大学で心臓移植希望の小さな子供さんが旧式の体外循環補助装置を使って脳死となり、御両親が子供さんの臓器提供に同意されました。その後、ご両親はこの小児用の補助人工心臓が何故我が国で自由に使えないのか、メディアを通じて問題提起をされました。国産の小児用はかってはあったのですが、長らく使用できるものがなく、小児の心臓移植を進める上で長期使用が可能なものが不可欠となってきました。そこで、海外でよく使われているドイツ製の小児用補助人工心臓(ベルリンハート)を我が国に導入すべく医師主導型の治験が一昨年から始まったわけです。

しかし、予定していた4例が昨年に済んだ後は、国が健康保険で使えるように承認する手続きが残っていて、今年の夏に最終承認がでるとの予想でした。その間は、使えたくても使えない、という歯がゆい状況があり、また治験の対象が心臓移植の適応判定が済んで臓器移植ネットワークに登録している、という条件がありました。こういう二つの壁があって、移植が必要な心筋症の子供さんも移植までの生命維持に必要な人工心臓の恩恵を受けられずに亡くなってしまうという、情けない事態が起こって来ているわけです。

薬の治験の場合、臨床での治験が終わり、正式な承認が得られるまでは、どうしても使いたいときは、医師の裁量で人道的使用という名目で使える仕組みがあります。しかし、このベルリンハートではそれをするにも使える予備の人工心臓もなくなっていた、という状況と思われます。予備の装置を置くのは治験予算の枠があり、高価なものでは特に難しくなります。企業治験では申請企業が何とかすることもありますが(我が国の心臓移植再開第一例での植込み型は治験後でしたが企業が提供してくれました)、このベルリンハートの医師主導治験は日本医師会が引き受けてくれて全部の費用を出してもらっているのですが、追加はそう簡単ではありません。

こういう中で、学会関係も政府に早期承認やその他の制限の緩和を要望してきました。厚労省もことの重大さを受けとめて、今回粋な計らいをしたようです。行ったことは、人道的使用の範囲を広げて治験要件の壁であった臓器移植ネットワークへの登録という条件を外した(医学的に同等と判断されるという担保はあるのでしょうが)ことと思われます。残る治験費用の獲得ですが、これは日本医師会が追加研究費を出したのかは私には分かりません。

ということで、急に阪大病院と国立循環器病研究センターで続いて2例の植込みが行われたことが報道されました。まずは急場を凌いだということですが、大事なことはこれからです。先のご両親も、小児の心臓移植が進まないと解決にはならない、といった内容のコメントをなさっていますが、まさにその通りです。人工心臓を付けても、行き先は米国、という構図は簡単には変わらないでしょう。

海外渡航移植にお金を出したり、機械の輸入やもの作りには我が国(社会)は積極的です。4月に入って国は新たな組織、国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」を立ち上げました。再生医療や先端的医療機器の開発には随分力を入れるようなるでしょう。しかし、臓器移植、命のリレー、という素晴らしい心の通った医療ではどうでしょうか。その推進の要であります日本臓器移植ネットワークの経費や都道府県のコーデイネーター雇用経費を見ると、厚労省と総務省ですが、本当に僅かの予算しか出ていません。国の新たな機構は沢山投資して事業を活性化させる方式ですが、臓器移植では出来高主義です。今年は何例の提供があったから、それに見合う予算を立てる、というのですから根本的なことで違います。社会実験でドナーコーデイネーターを5年間何倍かに増やし、その結果の臓器提供数の推移をみるという、世界で実証されているシステム改革に予算を付ける余裕もないわけです。これは学会関係がやることではないので、ここは行政の発想の転換が必要なのです。

今回のベルリンハートの問題は、単に人工心臓の問題でなく、医療機器の開発とともに移植医療について考え直す大事な機会と捉えるべきです。また、小児の脳死での臓器提供についても社会やマスコミはもっと関心を持ってほしいと思います。お金を揃えて外国で臓器を頂く、という今のやむを得ない構図が一刻も早く解決し、過去の話になって欲しいです。

先日とった、ポートアイランドでの桜です。

補足: 本年1月に阪大で脳死となった心筋症の子供さんからの肺移植が岡山大学で行われましたが、最近になってこの子供さんが無事元気に退院されたことが報じられています。移植を受けた子供さんのご両親も、提供の決意をされたご両親への感謝と敬意を表しておられるとのことです。良かったです。

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