2015年8月9日日曜日

日本臓器移植ネットワークはどう変わるか

    
 先般ニュースにもなったが、公益財団法人日本臓器移植ネットワーク(以下ネットワーク)の臨時総会が8月4日東京で行われた。議事内容が今後のネットワークの進む方向や社会的役割に関わることでもあり、私は以前理事会メンバーであり今も個人正社員であることから出席してきた。議事内容というのは、既に報道されているが、本年3月3日付けで厚労大臣から指示書が出て、理事長など執行部の交代が行われるからである。即ち、次期体制についてまず役員候補者選考委員会の設置が審議された。OB的な私が敢えて出席したのは、今後のネットワークがどうなるかの重要な会議であると判断したからである。
事の起こりは、臓器あっせんに関わる業務の誤りが連続して生じたことである。誤りとは、平成26年11月と27年3月に、共に脳死での臓器提供に伴うレシピエント選択の手順、意思確認、でのミスから、本来移植(腎臓)を受ける権利(優先順位が上)があった待機者への意思確認がされず(1例では不適切な確認作業)、結果的に一人については優先順位が後の別の方に移植が行われてしまっていることである。詳細は省くが、ネットワークは移植待機者リストから法律(省令等)で決められた順番で移植を受けかどうかの意思確認を行い、臓器配分(あっせん業務)を公平かつ公正に行うという社会的使命(臓器のあっせんを国が決めた業として行う)に反することが続いて起こったのである。このことから、厚労大臣名でネットワーク野本亀久雄理事長あての法律による業務の指示書が出されたが、内容はあっせん業務の誤りについて再発防止策が実効をあげてこなかっことから、管理体制について徹底した検証と再発防止のための改革案を6月末にまとめ、その方針に従って改革をすることと、役員の厳正な処分などの適切な措置を講ずること、となっている。
これを受けて、再発防止に関する第三者委員会が設置され、6月10日に提言が出され、業務執行理事3名が辞任の意思表示をしている。我が国の法律のもとでの脳死臓器移植の歴史のなかで最大の不祥事ともいえるものである。かって理事の一員であったが、当時からネットワークの組織としての基盤の弱さや馴れ合い的な運営体制、ビジョンもなく広く意見を求めない体質などに危惧を持っていたものとして、この事態は失礼ながら遅きに失したものと思っている。理事長はネット―ワークの運営が危機状態にあり、脆弱な運営体制から脱却し、生まれ変わる為に再出発をすべく、社員総会で皆さんの意見を聞き、次期体制構築を進める、という社員総会招集の趣旨である。そうか、やっと改革へ向けた今後の議論が出来るのか、という期待を持って出席した。しかし、それはあっけなく消されてしまった。それを言いたいがための今回の投稿でもある。
肝心の提言は、北村聖東大教授が座長の下で出された第三者委員会から出されている。適切な検証作業を行い、大変内容の濃い、かつ的確な指摘と今後に向けた正に時機を得た提言である。将来的な課題のまとめの項では、法人の運営形態、移植医療に伴う知見の速やかな反映、そして最後はあっせん業務について国民の移植医療への信頼を損なわないよう万全を期すように、となっている。
前置きが長くなってしまったが、肝心なことは次期体制への準備(移行)のことである。社員総会では提言について北村聖座長から説明があり、少し議論がされただけでその後の審議(議決事項)に移り、議題は次期体制について、特に役員候補者選考員会の設置であった。理事長が議長である。私は今回の総会に出る上で考えていたことを書かせてもらう。そもそも提言をもとに執行部が辞表を出した(正確かどうか不明)状況でネットワーク運営を今後どうするか業務的には大事であるが、その前に、あるいは並列で、ネットワークそのものの今後の在り方や将来構想を議論すべきであり、執行役員の交代で済ますことはこの重大な時期における対応としては聊か問題でるという考えである。そこで、この具体的議事に入る前に発言をさせてもらった。しかしお二人の社員から反論があり、まず執行部を決めることが社員総会の責任である、として一蹴されてしまった。次期役員選考ありき、という雰囲気であった。とはいえ、私の発言の趣旨は次期執行部で考えてくれると期待したい。
その後、役員選考委員会の設置に議論が進むが、ここで理事長は議長を交代したい、という発言があった。もう自分の役割は終わったから後に譲る、ということのようであった。議事の詳細は書かないが、議長提案の議長代行案については異論もあり、結局現理事長が私見は控えて議事進行のみを行うこととなった。ここでもう予定の2時間は迫ってきた。そして後は役員候補者選考員会運営規則の内容についての議論があったが、内容的には社員以外に第三者委員会から選任とあり、その数で紛糾した。そもそも次期役員の候補者選考まで第三者委員会のかたに入って貰う意味が私には分からない。そこまで第三者委員会(あるいは厚労省?)に配慮する必要があるのか、あるいは現在のネットワークが信用されていないのか、である。情けない話である。正直このネットワークの執行部は失礼ながら末期的状態にあると感じた。この期に及んでも社員総会議事運営自体まともに出来ないのである。
帰りの飛行機の時間があり、その後の具体的な審議には参加しないで退席したが、後で聞くと選考委員会の人選まで進んだそうである。そのたたき台も出たそうだが、誰かが作ったのか。現執行であろうが、社員総会に議事進行を見ても、大臣の指示書まで出たこの期に及んで、現執行部は最後のあがきをしているように思える。役員選考委員会は英断を持って改革を出来る人材を選んで欲しいし、臓器別の覇権争いもあってはならない。次期執行部はあっせん業務の見直しは当然であるが、同時に将来構想も含め検討し、1年を目途に論点整理と解決策を出すべきである。そうしないと改革にはならないのではないか。
さて、今回の問題の発端であるあっせん業務は専属コーデイネーターが関わっている。提言でも指摘されているが、法改正前は年間10例に届かなかったが、今は年間50件にも及び、かつ選択基準も臓器ごとに複雑化している。手作業で出来るものではなく、当然システムが完備していないといけない。コーデイネーターも増員がされているが教育が追い付いていないとの指摘もある。ここで知っておくべきことは、かかる業務経費や人件費は国の補助金で賄われている。当初は専属や都道府県コーデイネーター増員への先行投資は出来なかったが、今は補助金が余る状態にあるという。臓器移植(提供)のアクションプランでも周知であるが、移植(ドナー)コーデイネーターが要である(数と質)。この際、改革の大きな柱は、このコーデイネーターの充実であろう。
一方では、このネットワークの成り立ちの歴史を見ても、法律が出来て新たに国が予算化して立ち上げたのではなく、昭和48年に発足した「腎移植普及会」が母体で(提言に書かれている)、その後は社団法人化され、臓器移植法が実施されるに伴い今の名称に変更がされ、法律に基づくあっせん業の許可を国から唯一受けて今日に至っている。この際、あっせん業務は法律のもとで行われる国の事業であり、この部分を法人組織に認可という形でいいのかも議論されるべきである。何れにせよ、ここで社会は臓器配分のあっせん業務とともに移植コーデイネーターの現状を知ってもらう機会にすべきであろう。
最後に、法律が出来て20年近くにならんとしているこの時期、心臓移植では患者選択は国のしばり(省令など)から学会などのアカデミアに任せていく方向に動きだしているなかで、今回のことで臓器移植への国の関与(監視)がきつくなって行く気配が出てしまったことには違和感がある。このことも含め、ネットワークがどう再出発するのか注目されるし、雨降って地固まる、として欲しい。
猛暑が続く中で暑苦しい内容になってしまいました。もうお盆も近くなり、残暑の季節ですが、皆様健康にご注意を。自分自身のことでは熱中症にならないで夏を乗り切りたいです。