2017年3月7日火曜日

補助人工心臓とレギュラトリ―サイエンス、


 

 早くも3月に入ってしまいました。記事の更新も滞っていて、月2回の目標も崩れてきています。ここで気合を入れないとズルズルと後退して行きそうですが、そろそろ学会とか研究会も増えて来るので回復を目指します。

2月は日本心臓血管外科学会という我々の領域では最も大きなものが2月末に東京であったのですが、その最後の日に別のシンポジウムがあったので紹介します。

レギュラトリ―サイエンスに関するもので、早稲田大学の医療レギュラトリ―サイエンス研究所主催の「補助人工心臓の研究開発から学ぶ」、というものです。早稲田大学には医学部がないのですが、その代わりではないですが東京女子医科大学と連携して連携研究体制を作っています。新宿区河田町の女子医大キャンパスの一角にTWInsという両大学の合流した新しいユニークな研究所が出来ていて、その中には人工心臓の開発研究では日本を引っ張ってきた梅津光生教授がおられ、今は早稲田大学総合機械工学教授でこのレギュラトリ―サイエンス研究所の所長をされています。また、循環器内科分野でのレギュラトリ―サイエンスではやはりリーダーの笠貫宏先生が特任教授として参画されています。

さて、本題ですがレギュラトリ―サイエンス以下RSとしますが、これは医薬品や医療機器の国(行政)による許認可において、規制だけではなく如何に国民の福祉に貢献できるシステムを作るか、即ち規制を規制に止めずサイエンスでもって支援していく科学です。 これまでデバイスラグやドラッグラグが問題になっていましたが、ただ規制が悪い、迅速な承認、というだけでなく、そこにRSの概念や手法を取り入れることで、我が国の医療機器や薬品開発促進しよう、というものです。また国際標準に合うべく審査や承認の仕組みを変えていこう、という動きでもあります。医療費との関連、費用対効果、の話でもあります。沢山の活動や学会、研究組織もありますが、此の早稲田の研究所(MeRS)はユニークな存在です。

今回のテーマは、補助人工心臓関係なので、主催者側でもなく演者でもないのですが、旧知の梅津先生や補助人工心臓のデバイスラグでともに闘って来た順天堂大学の佐瀬一洋教授にも久しぶりに会いたくなって、急遽の参加でした。前置きが長くなるのは悪い癖ですが、要点を紹介します。なお、この分野では究極のターゲット?となるPMDA(医薬品医療機器総合機構、FDA日本版)の近藤達也理事長のお話は間に合わず聞けませんでした。

演者は心臓外科の仲間の話は省略し、行政やRSのアカデミアの話が面白かったので紹介します。行政からは現在PMDAにおられ、これまで長く厚労省におられた俵木登美子氏と、PMDAで補助人工心臓のレジストリー(J-Macs)を立ち上げてこられた石井健介氏が登場。これまでの私共の学会と連携して進めてきた補助人工心臓の認可におけるデバイスラグ解消やレジストリー構築までのステップの紹介があり、懐かし話や最近の展開も楽しく聞かせてもらいました。医療機器の開発支援や審査承認制度については人工心臓がいつも成功組として紹介されますが、このステップも考えてみれば10数年に及んでいる訳で、こんなに懸ったのか、これでいいのか、という感想もあります。

では、現状での課題は何かですが、話題はもっぱらレジストリーの在り方、活用の仕方でした。RSはまさにこの登録制度(レジストリー)で得られたデーターベを如何に活用するか、そして新たな仕組みをどう作って行くかが問われている、ということです。非臨床試験(基礎や動物実験)での評価法、レジストリーネットワーク、リスク・ベネフィット評価、というテーマでの議論でした。私も議論に参加させてもらい、心臓移植を例に出しての話ですが、我が国の臓器移植のデーターベース(レジストリー)では移植登録は日本臓器移植ネットワーク、適応判定は日本循環器学会、それぞれが管轄しているのですが、そのレジストリーデーターの活用が全くと言っていいほどなされていないのです。因みに米国のUNOSからは学術的な報告(解析)がどんどん出てきて、これが規制というかドナー選択システムを変えて行っているのです。我が国では全くなされていません。不作為と言っていいでしょう(自分にも責任がありますが)。元に戻って、医療機器や薬品では米国はFDAが仕切っている訳ですが、FDAからのデーターの分析やRS関係の論文がNew England Journal of Medicineという超一流雑誌にいくつも出るようになって来ているということです。世界が違うのです。10数年前に佐瀬先生たちとFDAを訪問し、Harmonization by doing (HBD)という切り口というか合言葉で規制改革を進め始めたのですが、このHBDの進捗はまだ道遠しです。

最近はビッグデーター、ということが良く言われますが、診療報酬制度のデーターは医療の正に根幹ですが、その他の多くの臨床データーを実臨床エビデンス(Real World Evidence)に繋げる科学(integrate,統合、する)もこれから必要という、これを実践している研究者、大津洋博士のお話も素晴らしかったです。佐瀬先生は医療戦略の本質はValue-based Medicineであるという米国クリーブランドクリニックの紹介も新鮮でした。これは先の記事で紹介した藤田浩之氏の講演にも関連するものではと思いました。

まとめですが、医療機器でいいますと補助人工心臓や新たなデバイスがツナミのように我が国に押し寄せていますが、国内企業や研究者を守りながら、そしてHBDの趣旨で非関税障壁を取り払いグローバルな視点で新たな医療機器を迅速に導入することが求められている。そしてそこにはRSに基づいた仕組み作りが大事であるということでした。規制改革やデバイスラグを叫ぶだけでなく、科学する姿勢で対応することが今後さらに求められ、そこにはデーターベースからのエビデンスを基盤にするという文化を根付かせる必要がある、ということでしょうか。しかし、これを進める上でのレジストリー事業には大変なお金と人が必要である、という現実が大きな障壁として残っていることも改めて認識したシンポジウムでした。