2017年10月16日月曜日

臓器移植法制定20周年


 20年前(1997年)の1015日は脳死からの臓器移植を可能にした臓器移植法が制定された日で、これに合わせて全国でいろいろな取り組みが行われている。昨日は東京で日本臓器移植ネットワーク主催のものもあり、今日の読売新聞は臓器移植を取り巻く諸問題を大きく取り上げている。振り返ると、和田心臓移植から30年近く経っていたが我が国らしく法律で道を開いたのが1997年。実際の脳死からの移植は19992月の高知赤十字病院での法律の下での脳死判定がなされ心臓と肝臓がそれぞれ大阪と松本に送られたのが始まりであった。その後、臓器提供が少なく移植希望患者さんには厳しい時期が続いたが、実質的に臓器移植が身近になったのは2010年の法律改正がなされてからである。当初の法律下では年間10例に満たない少ない臓器提供を、救急医療や移植医療関係者の努力でもって社会の移植医療への不信や危惧を払拭する結果を出し、その結果それまでの本人の書面での提供の意思と家族の承諾という厳しい条件が法改正で家族の承諾でも可能とする緩和に繋がり、現在の年間50例以上の提供になっている。
さて、法改正で臓器提供も年間50例を越えるようになったとは言え、欧米やアジア諸国の人口100万に当たりの年間臓器提供(脳死および脳死後心停止)は20-30件であるのに対し日本は0.6という50倍以下である。これは宗教や文化という背景以上に制度上の問題があることを物語っている。これまでも指摘しているが、法律で守られている(制限されているというより)臓器提供を医療関係者はもっと知るべきであり、また救急医や脳神経外科医、小児科医などの負担を軽減させる施策をもっと進めるべきであろう。患者さんが死に至るようになったときに、医師は脳死に限らず臓器や組織の提供という選択肢を提示する役割を持っているという認識がいる。法律で義務付ける前に普段からでも出来ることではないか。しかし、その前提は国民が広く臓器移植を良く理解していなければならない。そこが今後も課題であり、今回の節目の年に関係者は努力すべきである。移植を受けた子どもさんや大人の方の元気な様子を見てもらうのが、移植医が色々言うことより何倍も説得力がある。また、施策のなかの提供側の負担軽減の具体策に向けては、国家議員連の先生方も選挙が終わったらまた活動を再開して頂きたい。
さて、兵庫県の移植医療関係者の行政への提案については8月末に書かせてもらった。その後の経過報告であるが、救急病院の臓器提供への負担軽減の要は院内ドナーコーデイネーター充実である。しかし、専任や増員は人件費の増加になり病院管理側はまず無理という回答である。また、その資格付与も関係学会等ではそう積極的ではない。ということで関係者と意見を纏めているが、どうも院内ドナーコーデイネ-ターの方は問題が多く、まずは都道府県ドナーコーデイネ-ターの増員とか補佐役のコーデイネーターの配置が作戦上重要であるということになって来た。近々、県と神戸市に再度訪問する予定である。
臓器移植の啓発活動では、今度の日曜日、22日、総選挙と重なったが、神戸市内で公開講座を開く。移植を受けた患者さんにも登場してもらう予定である。チラシ参照。ここで社会への何かメッセージが出せればと思う。そのためには、公開講座の最後に、神戸宣言2017、を出すべく準備中であるが、メディアが取り上げてくれるのを願っている。
先週は秋田市で日本心不全学会と日本心臓移植研究会が開催された。高齢者の心不全が大きなトピックスで、チーム医療ということで盛り上がっていた。一方の心臓移植研究会では、川島国循名誉総長のこれまでの50年にわたる心臓移植への取り組みの総括があった。心臓移植にはそういう歴史の重みもある。歴史認識を大事にしながらこれからの心臓移植を進める方々は、これまでの外科医主導から、内科医、小児科、救急医、脳外科医、そしてコメディカルと連携した総合戦略を立てるべきと思っている。勿論最近はこの仕組みは進みつつあるが、10年後に心臓移植を年間200例達成すると、いう目標を再確認して進んで欲しい。人工臓器、再生医療も大事だが、移植医療は世界で臓器不全治療のゴールデンスタンダードとなって久しいことを再確認してほしい。
心臓移植研究会で問題提起したのは、心臓と腎臓の同時移植、心臓と肝臓の同時移植、である。この分野には現状で全く道を開こうとしていない(少なくとも私にはそう思える)ことへの危惧である。成人先天性心疾患への心臓移植のことで述べたと思うが、待機期間が何年も無理で、また人工心臓の適用も困難な患者さんをどうするのか。ドナー不足だから今は無理、と言うことは移植医療に関わるものには禁句であると思っている。何年も待たないと臓器移植の恩恵は受けられない現実は異常であると言う社会認識がまず必要で、また長期の待機が出来ない方への救済策システム(臓器配分システムの改変)を作ることが行政と関係者の急務である。準備しても何年もかかるのではその間に多くの方が亡くなるのである。
上記の課題と共に、臓器移植推進のために今何を行うべきか既に整理されている。それは提供病院の負担軽減であり、臓器配分システムの再考である。特に前者ではこれを集約的にまず進めることである。救急関係の学会も、臓器提供の選択提示をクリニカルパスに入れようとしている。5年後に、今の取り組みがどう成果を上げているか楽しみである。


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