2014年1月14日火曜日

岡山で学会

この冬一番の寒波のなか、しかも3連休だというのに、先週末の土日は岡山行きでした。用件は成人先天性心疾患学会への出席。この学会はもう16回になるが、今回は岡山大心臓外科の佐野俊二教授が会長。先天性の心臓病の子供さんの多くは小さい時に心臓手術を受けるのですが、手術を乗り切った方が10年20年経つと当然ながら成人になる。ところが、最初は良かってもだんだん問題を抱えるようになる。再手術が必要になったり、不整脈、心不全、弁の異常、肝障害、肺高血圧、などが生じてくる。心臓外科医は最初は助けたと言いながら後の面倒も見ないとせっかくの手術が長続きしない。成人期になると心臓外科医や小児循環器医ではなく大人の循環器内科医も加わって、総合的な管理をする必要が出てくる。診療体制から構築していかないといけないし、遠隔期の問題をどうしたらいいか、多方面の専門医がよって議論がなされてきた。 私の心臓外科医としての歩みの中で子供さんの心臓手術、生まれつきの構造的な異常、への関わりは大きく、ルーツでもある。小児に関わりだしたのは医師になって5-6年経ってからで、米国留学も小児病院であった。今となってもう四十年以上になる。
     さて、今回はフォンターン手術の遠隔期の話題が集中して取り上げられた。フォンターン手術も私がライフワークとしてきたともいえるものです。正常では右と左の二つの心室(ポンプ)があるが、それが機能的に一つしかない病気があって、その手術方法の開発が研究テーマであった。自身が心臓外科に入った頃は、こういう複雑な異常,多くはチアノーゼ(唇の色が紫になる)があるが、には姑息手術で一時しのぎをし、あるいは何もできないで診ていたが、1971年にフランスの心臓外科医であるフォンターン先生がびっくりする手術を報告した。三尖弁閉鎖症という右心室ほとんど機能しない先天異常に、右心室を使わないで体から戻ってくる静脈血を肺に直接流すという常識外の手術であった。解剖学的な根治ではないが、チアノーゼもなくなるという機能的根治手術である。
      我々もそれを導入していったが、その理論的根拠を探る、あるいは新たな手術法を開拓する、というのが私の研究テーマでもあった。犬の実験で苦労した時代です。 その後この手術をもっと複雑な病気(単心室、左心低形成など)にも適応拡大しようとしたが、当時は成績も良くなく、患者さんにも心臓外科医にも厳しい試練の時代であった。その後手術方法も改良され、長期成績もよくなり、フォンターン手術の生存患者さんもずいぶん増えてきている。最近は年間日本で300例前後のフォンターン手術が行われている。この手術は心室(ポンプ)が一つなので、何かと無理がある。臓から出て行く血液量は正常の下限あるいはそれ以下、肝臓や腸管のうっ血、不整脈、血栓塞栓症、などが出て来やすい。
   フォンターン手術は心臓機能が悪くなっていくともう先の選択肢が少なくなり、心臓移植も考えないといけない状況も出てくる。海外では数は少ないが移植の報告も出てきていて、今回の招請講演者、英国のアシフ・ハサン先生から素晴らしい講演があった。ニューキャッスルの病院は英国で心臓移植を一番多くやっていて特に成人先天性の移植で良い成績を上げている。また、埋込型補助人工心臓も適応して,大変参考になった。この先生は二つ講演をされた。小さな子供さんが心臓手術を受けて、10歳とか20歳になって心不全が出てきて、再手術を繰り返し、もう後がないと言う状況を紹介。聞く方がこの方は亡くなったと思ったら、9回裏に逆転ホームランで元気になって、結婚したり子供さんを生んだりというストーリー。最後のホームランとは心臓移植でした。
  講演の後の議論で、私も移植や補助心臓の現状を質問したが、佐野教授も日本での困難状況を訴えた。すると答えは、日本では補助人工心臓があるではないか。どうして移植の代わりにそれを使わないのかとハッパをかけられた。永久使用Destination Therapyになるが、日本ではまだ保険が通らないし、最後まで内科治療でがんばるので補助人工心臓をつける時期が遅すぎて合併症が多くなり長続きできない,という実態もある。
    最後に,旧知の循環期内科の教授にお会いして雑談となった。フォンターン手術で心機能が悪くなったらどうしたら良いか、と振ってみたら、答えは外科医も小児科医も長く持ちすぎで、それが結局はうまくいかない大きな要因であるという。小児科医や外科医はまだ良くなる時期(上向き)を見ているが、大事なのは下り坂になったときが大事で、そこは我々内科の心不全専門医に任せたら、ということであった。そもそも慢性心不全をしっかり診てくれる循環器委が少ないことも課題なのだが。
   以下、余談です。かって阪大病院でフォンターン手術を三尖弁閉鎖から単心室など広げて行った中で、何とか助かった女性の患者がいる。その方は後に医科大に入学して医師になり、精神科をやりながら自分と同じ病気と関わりたいと言ってこの分野に入っている。彼女とは数年ぶりの再開で、岡山に来た理由の一つで懇親会で再開。何年か前に医学博士を取った頃に再手術を乗り切り、昨年には結婚もされている。元気な姿をみて感激。
     長くなりましたが、私からのメッセージを要約しますと
1) 成人に達した先天性心疾患患者さん(主に術後)の管理には、小児科医や心臓外科医だけではなく、呼吸器専門医、循環器専門医で慢性心不全が専門の医師、インターベンション専門医、などのチームが必要。2) フォンターン手術後の患者さんには心臓や肝臓、それに腸管などの障害が出てくるので、まだまだ克服しないといけない課題が多い。肝障害とか蛋白漏出性腸症など。未解決な課題が多いから、研究テーマが多い。3) フォンターン術後に限らないが、従来の治療では対応できなくなった先天性心臓病の心不全には、心臓移植や補助人工心臓の適応も我が国で考える時期。
    なお、成人先天性心疾患については、学会のHPがあるので、参照されたし。  
         http://www.jsachd.org/event/index.html