2015年11月24日火曜日

人工臓器学会で


 しばらくご無沙汰していました。もう11月も終盤になって来ていますが、ようやく紅葉も始まって遅い秋の到来、というところでしょうか。胸部外科学会や心不全学会が済んで暫くのんびりしていました。
11月の学会としては紹介したいのは先週東京であった日本人工臓器学会です。もう50年の歴史ある学会で、人工腎臓や人工心臓、人工肺、人工肝臓、人工関節、人工膵臓、人工血液、などあらゆる臓器や組織を人工的に作ろうという分野です。そして、その基礎となる科学として、材料工学では生体に親和する材料の開発、も重要です。また、一時的な補助(補助人工心臓、人工膵臓、人工肝臓)や恒久的なもの(人工関節、人工骨)など多彩です。人工透析や血液浄化の研究も盛んです。今回は、会長が日本大学心臓外科の塩野教授であったことから、心臓関係が多い学会でした。
人工心臓というと何度も紹介していますが、補助人工心臓の新たな展開、永久使用(DT)、を視野にしたセッションが多くなって来ている。また植込み型の認定施設が全国で40施設にもなり、看護師、ME技士、の参加も多くなっている。同時並列で、日本補助人工心臓研究会や定常流ポンプ研究会など関連研究会もあり、かなりダブっているのでいっそのこと人工臓器学会で纏めた方が時間節約にもなる、とも思われる。
人工心臓以外の話題では、米国で人工肝臓の研究を進めておられる南カリフォルニア大学の三木敏夫先生の幹細胞(iPS細胞)を使った新たな展開が紹介された。3-4年先には臨床試験を始めたいということである。この分野では日本は遅れている感じがしたが、間違っていたら謝ります。またロボティックスではロボットスーツのHALで有名な、ベンチャー企業サイバーダイン株式会社を立ち上げた筑波大学の山海嘉之教授から、革新的サイバニックシステムという特別講演があった。この医療用スーツHALはヨーロッパでドイツを始め医療用器具として脊髄損傷の患者への労災保険が適用され、日本でもようやく医療機器として認可される見通しになっている。わずかに残っている神経活動を拾って補助の人工脚を動かしながら訓練すると自分の神経が回復してくるのである。自力歩行が出来なかった車椅子の患者さんが、HALを付けて歩けるようになり、次は簡便な補助器を付けながら自分で歩けるようになるという、素晴らしい成果で感銘した。世界に誇れる技術である。心臓関係が海外からの輸入に頼っている現状とは大きな違いである。
さて、補助人工心臓についての発表が多い中で、いろいろな課題も浮かび上がってきている。素晴らしいテクノロジーの成果で世に出てきている植込み型補助人工(VAD)も我が国では年間百数十例に植え込まれている。しかし、保険適用は心臓移植への繋ぎであることから、適用はかなり。心臓がかなり弱ってもう打つ手がない、しかし心臓移植になるかどうかはまだ分からない、本人も家族もまだ理解が出来ていない、と言う状況が多くなっている。VADでないと命が持たないけれど、今使える体外式VAD では感染や血栓塞栓などのリスクもたかく、付けるなら長期の在宅管理が出来る植込み型が望ましい。しかし、保険適用はされない。体外式を付けても退院できないから、補助が長期になったことを考えるとそれも躊躇される(東大からの報告)。要するに、優れた機器があるのに保険の縛りでみすみす使えないという何とも歯がゆい状況が増えている。
永久使用(DT)があるではないかということだが、治験が済んでもDTは別の世界で、移植適応がないとことが明確でないと使えない。65歳以上なら移植は(登録)出来ないから今後DTと言う選択肢が出てくるが(今は全くない)65歳未満はどうなるのか。移植になりそうだがまだ決断できない、という患者さんへの道を閉ざしている現状である。保険適用に厳しいお役所に負けて関係学会が自分で首を絞めているのではないか。
このような植込み型VADの課題が鮮明になって来た学会であったと思う。私は、DTの治験は今の流れで進めたら良いと思うが、今後も取り残されていく沢山の重症心不全の患者さんへの対応を、一度原点に戻って全体像を考える時機であると痛失に感じるのである。この12月にある補助人工心臓の関連学会協議会でこのことを議題にしてもらうようお願いしている。DT治験後の植込み型補助人工心臓の保険償還の在り方について、である。この問題は医学的なことより医療経済の問題になってくる。デバイス代が2000万円近く米国の2-3倍である現状では適用をおいそれと増やせないという健康保険の財政問題がある。

社会復帰、言い換えれば生活の質を、を考慮した医療費用の算出が大事で、質調整生存年QALYがある。社会が許容できる(生産性を見たという表現は的確ではないであろうが)、1QALYとしてどの位医療費の投入が妥当かである。大阪大学の田倉教授が今回も発表されていたが、人工透析は年簡600万円かかるが補助人工心臓では約1,000万強とのこと。これは結構良い予測であるが、装着後安定すればの話しである。これまでの分析では1QALY 2,200万円程度というデーターがある(http://www.jacvas.com/view_dt.html。これでは保健医療のなかで受け入れられないであろう。米国では高齢者への国の補助も額が大きくなっているが、そもそも医療保険体制が異なるし、企業の力が強い。我が国では今後、VADの高齢者への適応も考えると、慢性透析だけでなく補助人工心臓もやり玉に挙げられる可能性もある。先手を打ってこの問題をアカデミア、行政、そして企業で真剣に考える重要な時機であると感じて帰ってきた。

写真は懇親会でのショット。塩野会長を前に、後ろには渥美先生ご夫妻、瀬在元日大総長、の顔も見えます。前の女性は日大医学部卒の産婦人科医で、その方の主催するマジックショーがありました。日大、瀬在明先生のFBより拝借。
 
追記:医療用ロボットHALは11月25日に厚労省よりこの分野では初めての医療機器として承認され、幾つかの病気で保険適用されることになりました。画期的なことです。 できればに日本発のこのような先進機器は欧州より先に本家で承認されるようにしてほしいですね。

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