2017年1月16日月曜日

成人先天性心疾患学会

 成人先天性心疾患(adult congenital heart disease, ACHD)については何度かこれまでにも紹介した。成人で先天性とは、と何かおかしな名前であるが、この領域は歴史的に見て小児の先天性心臓病(生まれつきの心臓の異常で、沢山の病気がある)の外科治療から始まっているので、小児心臓血管外科、小児循環器の専門医が集まって研究が始まった。そして今では手術を終えた多くの患者さんが成人期に達するようになり、その方々は種々の問題、遺残病変や合併症、中でも慢性心不全を呈するようになることから、その分野に特化した多職種の専門分野の連携の必要性が問われてきた。英国ではGUCH (grown-up congenital heart、成長した先天性心疾患)として診療体制や研究、統計疫学、が進んでいる。名前が有名なブランド品に似ているが、英国人らしいユーモアを感じる。米国でも専門医や専門看護師も出来てきている専門分野であって、我が国でもこの分野の学会が始まってもう20年近くなる。今回第19回の学会が三重県は津市で、三重大学産婦人科教室の池田智明教授が会長で行われた。何故産婦人科の教授が、ということは後で説明するとして、幾つかのトピックスを紹介したい。
この学会はいつもこの時期に行われるのが習わしであるが、今回は日本中が大寒波襲来で冷え切っていて津市内も雪が舞うなか、学会会場は駅前のホテルで、300人位(不確か?)の参加でホットな雰囲気で行われた。そもそも学会会員は800人程度で、医師(循環器、小児循環器、心臓外科、産科、放射線科、麻酔科など)に加えて、看護師、検査技師、心理士の方々も参加している。学会の前日には三重大学医学部のこの分野の関連の先生の講演があったが、川崎病の最近の動向、心臓外科の進歩、放射線科での診断法の進歩、などであった。川崎病は先天性心疾患ではないが、冠動脈に異状が生じる病気で、日本で流行的に発症し、その特な病態から新たな疾患として認められ、発見者の川崎博士の名前が付けられた。かってこの病気が世界で注目され、川崎病として広まったころに、神奈川県の川崎市のどういう方かは忘れたが、名前を変えくれというクレームがあったと聞いているが、今はそういう話は昔話になっている。とはいえ、この病気歯まだ発生数は減少しておらず、また原因はすぐにわかるような雰囲気であったが、今回専門の方に聞くと、まだ全くと言ってもいい程原因は分かっていないとのことで、病気の原因を突き解けることの難しさを改めて感じた。因みに、初期治療の方針が固まっていて、冠動脈バイパスや心筋梗塞になる頻度歯減っているということであった。
さて、肝心の成人先天性心疾患では、学会会長や英国の招請講演者も産科の先生で、手術後や心臓病を持ったままで妊娠出産となる患者さんが少なくなく、母子の安全や健康管理での英国での進んだシステムが紹介された。この分野もそうであるが、心不全管理や再手術、ひいては心臓移植などの全体像を見れる診療体制の必要性、基幹病院への集約が必要ということであった。我が国でも問われることである画、専門分野の他職種連携と集約が大事であるが、我が国ではこれがなかなか進まない課題でもある。招請講演者のPhilipp Steer教授は英国での傾向として若い人が簡単に妊娠する傾向があり、心臓病を持った若い女性への啓発活動や心臓病のスクリーニングが必要とのことであった。出産前に胎児の発育遅延が見つかり、その原因が先天性の心臓病が隠れていることもあるという話しであった。
もうお一人英国のこの分野の専門であるMichel Gatzoulis博士の講演では心不全の話があり、大変興味深かった。先天性心疾患術後はすでに慢性心不全の患者群に入り、特別な注意でもって対応が要ること、再手術やカテーテル治療、デバイス治療が紹介された。私は討論時に、心臓移植についての我が国へのアドバイスや、移植に至らないような治療体系もことを質問させてもらった。難しい話であるが、これも集約したセンターで対応すべきであり、また補助人工心臓の応用もこれからの課題で、期待されているとのことであった。
最後に我が国の演者のシンポジウムで、フォンターン手術の再手術の話があった。このテーマであるフォンターン手術は私のライフワークでもあり、興味があり、議論にも参加させてもらった。特に術後の肝障害についてはまだまだ問題解決には程遠く、肝硬変になるリスクの解析や心臓移植以外の対応など、今後の課題として残されていた。 私はもう手術にお参加はできないが、術後患者さんのフォローの中で、何か貢献できればという思いを深くした。

学会中から予想通り雪が降り出し、津市内も白くなってしまい帰りの交通が心配されたが、近鉄は特に遅れもなくなっていてトラブルなく帰ることが出来た。以上、津の学会の報告でした。

                   ホテルから津市内の写真。伊勢街道が見えています。






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