2014年9月25日木曜日

慢性心不全の動向

 我々の体の中で生命維持はもととり普段の生活で大きな役割をしているのが心臓であります。何をするにも心臓がしっかり脈を刻んで血液を肺と体に途切れなく送ってもらわないといけません。この心臓の機能が落ちた状態で心拍出量(体に送られる血液量)が代償できていない状態を心不全と言いますが、階段や普段の歩行で息切れがする、尿が少なくなり体がむくむ(浮腫)、脈が速くなって苦しくなる(失神することがある)、ベッドに平らになって寝られない、などの症状が出た状態です。急性心不全は心筋梗塞や大動脈解離、弁膜症、などで起こってくる急に発症し迅速な対応が必要なもので、循環器分野や救急医療でよくお目にかかります。これに対して心臓機能低下が長期にかつ進行性になり、生活が制限され何らかの治療が必要になってくるのが慢性心不全です。
最近、この慢性心不全が循環器の分野で関心が高くなっています。慢性心不全の特徴は年齢が高くなると発症しやすくなることです。背景には、動脈硬化による冠動脈狭窄(虚血性心疾患)や高血圧、心臓移植で関心が高くなった心筋症、弁膜症(高齢者では大動脈弁狭窄が増える)、それに糖尿病などの生活習慣病があり、食事療法では対応できないので、どうしても利尿剤や種々の薬物が必要になり、調子が悪くなると一時的な入院が必要になってきます。急に動けなくなり呼吸困難になって入院したら心不全であった、ということがよくあるのですが、最初の検査や治療法の選択で症状は改善し、外科手術が必要な時もあれば薬物治療や生活指導、あるいはリハビリテーションで経過をみることになります。しかし、退院してもしばしば再入院が必要になります。この再入院が医療費はもとより生活の質を考えると問題で、これをどうして減らすかが医療現場での大きな課題です。
米国の心臓病協会(AHA)のHPEmory大学)では次にようになっています。
l  約500万人が慢性心不全をもって生活している。
l  約55万人が毎年新たに心不全と診断されている。
l  年齢が上がるについて頻度は高くなる(65歳以降では1%)。
l  慢性心不全は87万位人ほどの入院患者の診断名で第1位であり、65歳以上の入院患者での最も一般的な病気である。
l  慢性心不全を発症したら半数以上が5年以内に死亡する。
米国の背景には、慢性心不全治療で2兆円を超え、再入院や薬代で医療経済を圧迫していることが社会問題になっていますし、働き手が減るという視点もあります。慢性心不全をどう予防するかが学会の大きな目標になっていて、Heart Walk Superheroes、といったキャンペーンもみられます。禁煙とともに歩いたりする運動することを積極的に勧めています。
心不全への医療費を減らすことが重要という視点ではと日本ではまだ甘いわけですが今後米国と同じ問題が生じてきます。それは人口の高齢化です。60歳を超えてくると心不全の発症が増えてきている、という大規調査の結果が出てきているからです。我が国では心臓病での死亡が悪性腫瘍に次いで第2位にあります。慢性心不全の統計は北海道大学循環器内科筒井教授らのグループの研究があります(JCARE-CARD)。約2600人の慢性心不全患者の登録調査では平均年齢が71歳、虚血性が32%、登録時の年齢は男性が7079歳がピーク、女性は8089歳がピークと、なっています。また、再入院率は最初の入院治療半年で27%、1年でみると35%と高くなっています。これが問題です。医療費削減、医療の社会資源の有効活用、そして患者さんのQOLを考えないといけません。我が国の事情では入院ベッドが多いこともありますが、今後は在宅の心不全管理が大事です。再入院を減らそうと薬剤師や看護師も交えたチーム医療の実践も進んできています。
最後になりましたが外科医の役割はどうかです。心筋症では心臓移植と補助人工心臓が施設や数は限られますがかなり現実的になってきています。また植込み型補助人工心臓の進歩が著しいですが、心臓移植への橋渡しのみが保険適応であり、慢性心不全患者への対応としては限界があります。心臓への再生医療はまだまだ先ですし、心臓移植登録(適応判定)が65歳以下という大きな縛りがあり、65歳や70歳を超えた慢性心不全には先進医療は現状では困難です。65歳を超えた心不全患者への植込み型補助人工心臓適応は海外ではDestination Therapyが進んでいますが、我が国ではどうするのか。近々開催される日本心不全学会や日本人工臓器学会での検討が待たれます。
最近の心臓外科の話題は虚血性心筋症による僧房弁閉鎖不全への取り組みがあります。心不全の原因が弁の逆流によるところが大きいからです。人工弁置換でなく自己弁を温存する弁形成もよく行われています。また、大きく膨れ上がった心臓壁の一部(瘢痕となったところ)を縫縮(縫い縮じめる)する左室形成術も行われます。かって話題になった心筋を切り取るバティスタ手術自体はあまり行われませんが、それから進歩した術式も出てきています。しかし、外科治療が進んでも、ある限界を超えるとその効果は限られます。腎臓が悪い、肝臓が悪い、あまり動けない、など悪すぎる状態にならないまでに治療が必要です。もう何も打つ手がないから外科へ、ではその効果も十分発揮できませんし、かえって予後が悪くなる危険があります。心筋梗塞や弁膜症で心不全になったら、早いうちに適切な治療法の選択がなされると予後も良くなります。薬物治療もずいぶん進むなかで、心臓リハビリも最近注目されています。適切な運動療法で心機能(運動耐用能)が改善することも明らかになってきているからです。


このように慢性心不全治療(予防)は、心不全への早期の適切な治療の導入とともに、循環器内科と心臓血管外科、加えて心臓リハビリ、薬剤師、看護師をも交えたチーム医療での対応が求められている、ということで終わりにします。長くなりましたが、最後まで読んで頂き感謝です。  写真は何か考えます。