2014年12月8日月曜日

災害医療と人材養成、その2

      前回は災害医療への取り組みについてDMATを軸に米国と我が国を比較しながら紹介したが、肝心の人材養成(育成)はあまり触れられなかったので、その補足を今回させてもらいます。

まず、イタリアのコルテ(Corte)教授の講演でありますが、先生の根拠地である北イタリアのノバラでのおもに医学部や医療関係の大学生向けに行っている災害医療教育の紹介がありました。行っておられるのは、おもにコンピューターによるシミュレーション教育です。先生は欧州(地中海域)の救急医学カンファレンスの創始者でもあり、EUで様々な災害医療プロジェクトに関わり、大災害に対応できるプロの養成を精力的に行っておられる。コンピューターによるシミュレーションはいろいろな場面を想定したシナリオがあり、多職種や遠隔地の学生を交えて、実践的な対応の教育を進めている。大災害はそう滅多にある訳でもなく、想定訓練も何度もできるものではないの、こういったシミュレーション教育で下地を備えたり、学生の時から災害医療に興味を持たせたりする努力を続けておられる。

イタリアでも医学部教育で災害医療を基本カリキュラムへの取り組みは遅れていることもあり、また卒後教育にもつながることから、基本となる災害医療の知識と対応についてのモデル作りをされている。EUという環境ではまさに国際的な教育システムの構築も可能であるのかと思われる。楽しみながらシミュレーションに参加している学生の様子が紹介された。

質疑では、前回も書かせてもらったが、どういう専門職を相手にして教育するのかということで議論が盛り上がった。こと卒後教育となると、救急医学や感染症、外科、など多彩な分野の医師やヘルスケアーワーカー達が知識と対応方法を身に着け、いざという時に参加できることを第一とし、災害医療という枠にはめ込まないことが基本であることがよく理解できた。我が国の学部教育では救急医学の教授が講義や実習を担当するが、全体の中ではごく一部であり、国家試験対策が表に出るような所もある。まして大災害を想定した教育は座学でしか出来ないが、イタリア方式は今後我が国にも導入されるのであろうか、興味がある。我が国の医学教育は、最近でこそクラークシップも浸透してきたが、基本的には全ての領域での座学があって、臨床実習が海外に比べて少ないのは歴然としている。また、卒後の初期臨床研修(2年)もローテイト方式で、救急医療にはごくわずかで、少し様子を見る程度の経験しかできない。

災害医療は何時も行われているものではない。いざという時に総合的に医療部隊や行政が抜けのない対応ができるかは、システム作りと人材養成、そして普段の教育が必要であることを今回のシンポジウムに参加して痛感した。災害医療一つをとっても、わが国の医学教育,卒後教育、救急医療のリソース確保、など問題山積ではないか。都道府県の枠と言い、厚労省と文科省の連携のなさ、など行政の在り方も問われるのでは。

災害医療にも関連するのですが、昨日NHKTVニュースでドクターヘリのことが取り上げられていました。我が国のドクターヘリは学会や国を上げてその普及に取り組んできて、平成11年から始まり、現在は36都道府県で43機のヘリが置かれているということです。また、その出動回数が急速に増えて昨年度では2万件を超え、一機当たりの出動は平均480回にも及んでいるように、我が国の救急医療での役割は大変重要になっていているということでした。ここで驚いたのは、ドクターヘリはいくつかの航空会社(民間)が担当し、運用は都道府県に任されていることでした。医療チームは大学病院や救命センターが担当するのですが、ヘリの管理や運用には多額の予算がいるわけで、出動が多くなると当然その費用は増えます。航空機の会社に付けが行くわけです。患者さんには請求は出来ません。そこで、国はドクターヘリ用の補助金制度を作っていて、一機当たり年間一億七千万円を基準として、国は半分、自治体が半分を出す仕組みです。出動回数が多いところは、飛行機会社の持ちだしになるそうです。要は、最近増額されたとはいえ、そもそも補助金運用されているということに門外漢として何かおかしいのではと思ってしまいます。これまでの関係者や行政、国会議員の方々の大変な努力でここまで普及したことは素晴らしいことです。ただ、このような国民の生命に関わること、広い意味での医療費(ここが論点でしょう)が行政の補助金で進めなければならないことが残念です。米国のように医療保険で出るわけではないので、何としないといけないのですが、ドクターヘリ出動が補助金予算で制限されかねない状況をNHKも問題としていました。仮に40数機で平均して一機で年間約1億円が必要としたら、総額年間約50億円です。これを日本の現在の総医療費33兆円のなかでどの位かというと約0.015%です。膨れ上がる医療費のごく一部を節約すれば出てくる額、ということです。乱暴な解釈ですが、補助金の額を出来高払いにすれば事が済むわけですが、そうはいかないのは国の予算の仕組みですから、どうしたいいのでしょうか。ドクターヘリを医療費で云々は別にして、災害医療も含め、大事な医療を支える社会の仕組みへの国家予算が潤沢になるのは何時なのでしょうか。

災害医療という所から幾分脱線しましたが、いろいろ考えさせられる話題でした。