2015年10月26日月曜日

心不全学会で

この22日から24日まで、大阪は北ヤードのグランフロントで第19回の日本心不全学会が阪大の澤教授が会長で開催された。また、中日の23日は日本心臓移植研究会も合同開催で行われた。心臓移植研究会は私の代表幹事としての最後の会であったが、心不全学会での出番もあり、研究会には顔を出す機会が無かった。
心不全学会は当初は基礎系や内科系の参加が主であったが、最近は補助人工心臓の登場で外科医も多くなり、また看護やリハビリ関係のコメディカルの参加も多く、今回は1700人を越える盛況であった。澤教授の、「心不全を科学する、社会とともに」、というタイトルのもと多彩な企画もあって、面白い内容が多かった。私は会長経験者ではないが、心臓外科分野の理事として参加してきた時期もある。また心臓移植研究会が共催となってもう10年になるが、循環器内科医の心臓移植への関心も高くなっている。今回は外科医が初めて会長となった。循環器内科と心臓外科医が連携して心不全に対応しているが、こと学会会長となるとなかなか難しかったようである、阪大の心臓血管外科講座(旧第一外科)の歴史と澤教授の多彩な活動が評価されたのであろう。同門として嬉しいことである。
臓器の不全という病態を名前にした学会は少ないのではないか。腎不全学会とか呼吸不全学会、肝不全学会というものは見当たらない。心臓の機能障害の結果生じる心不全については、心臓病学会や循環器学会があって心不全を扱っている。心不全を特に扱う学会が作られた背景には、それなりの理由がある。欧米でも我が国でも高齢化社会が進むと共に心不全患者が増加し、心不全で死亡する数も増え続けて、米国では医療経済的にも大きな負担になっている。最近の医学系の雑誌では、心不全パンデミック到来、という特集もある。高齢化で心不全患者が社会にあふれてくることへ今から準備する必要が迫られている。
心不全のことを専門にする学会が出来ることで、新たな治療法の導入や社会基盤の整備が進むことが期待される。また、心不全を扱うプロ集団も出来てくるし、最近は看護師と薬剤師、それにリハビリが参画して、慢性心不全のケアへの後押しも進んでいる。最近のトピックスはハートチーム、である。上記のように多職種が参加し、また外科と内科医も一緒になってチームで治療をすることが求められてきた。補助人工心臓治療もこのハートチームが大事である。この学会でもハートチームシンポジウムが6つも企画されていた。また学会の目玉のシンポジウムに、重症心不全の治療限界に挑む、という企画があり、内科治療の進歩や外科系では左室形成術、僧房弁手術、そして心臓移植と補助人工心臓の発表があった。
このシンポでは阪大からはiPS細胞の応用が紹介された。iPS細胞をシートにした治療法が数年先には始めたいとのことであった。当初は患者さんの細胞からiPS細胞を作る計画であったが(網膜では自己細胞から)、患者自身からは時間がかかったりすることから、他人のiPS細胞を使うということである。京都大学のiPS細胞バンクから免疫的にマッチした細胞を選んで、それから心筋細胞を作る、ということである。免疫抑制治療が必要であるが、沢山の患者さんにはこの方法が現実的である。一方、末期的心不全患者の在宅管理や看とりをどうするかも話題になってきている。植込み型補助人工心臓治療が進むと同じ状況が生じてくる。既に心不全患者の在宅医管理をしっかり進めているクリニックからの興味深い発表もあった。

追記: さて、この学会には学会賞と学術賞という顕彰制度があり、学会賞は出来て3年目であるが、今回図らずも私がその栄誉に浴した。会長が澤教授でもあり、外科への配慮があったのかも知れない。受賞対象は、「心臓移植、補助循環、再生医療からなる重症心不全に対する包括的外科治療体系の確立」、ということであった。もうこの時期に賞をもらうことはないと思っていたが、これまでの教室の業績、心臓移植と補助人工心臓の普及、そして今の再生医療への基盤作り、などが認められたものと思われる。これまでご支援頂いた多くの方に感謝申し上げたい。受賞講演もさせてもらったが、私にとっても記念すべき学会であった。