2015年10月7日水曜日

ノーベル賞


 熊本の移植学会報告の第二弾を書こうと思っていたら日本人二人のノーベル賞受賞の大ニュースが飛び込んできた。医学・生理学賞では大村智北里大学特別栄誉教授が、そして翌日には物理学賞で梶田隆章東京大宇宙線研究所長が受賞された。お二人の業績は素晴らしいし、また我が国の科学研究者の仕事のレベルの高さも凄いと感銘を受けた。

私としては大村先生のお仕事をあまり知らなかったことを恥じているが、それは数年前まで薬学の学生や先生方と同じキャンパスで仕事をし、講義もしていながら、ということでもある。新しい薬に開発は大変な労力とお金が要る仕事で、個人で出来ることは限られているが、大村先生はその壁を信念とたゆまぬ努力で克服されたことが素晴らしい。ゴルフ場の土から見つけた新しい放線菌が出す物質が寄生虫の特効薬となって何千万というアフリカの人々を失明や病気から解放させた。感動の物語である。北里柴三郎博士が第1回のノーベル医学生理学賞の受賞にならなかった無念さを100年後にその後継者の一人が受賞したことにも拍手を送りたい。野口英世博士の分も一緒に取られたとも言える。

さて、土壌から新しい菌を探して新薬を開発することでは沢山の話があるが、ここで紹介したいのは免疫抑制剤のことである。1980年代になって臓器移植の成績が飛躍的に向上したのはシクロスポリンという免疫抑制剤の登場による。シクロスポリンは1970年にスイスの製薬会社サンド社(現在のノヴァルティスファーマ)の社員が休暇中にノルウェイから持ち帰った土にあった真菌の出す物質が、同社の研究員ボレル博士により特異的な免疫抑制作用をもつことが分かり、サイクロスポリンAとして移植患者に投与された。その結果、拒絶反応が抑制され世界に広まった。そういう意味では、これまで45万人(想定)の患者さんを救ったことになる。

一方、同じ免疫抑制剤として我が国から出たものがある。藤沢薬品工業(現在アステラス製薬)のプログラフである。これもやはり土壌菌の出す物質である。1984年、筑波山の土壌から見つかった菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス)が出す物質で、FK506として開発され、プログラフとして今やシクロスポリンにとって代わる代表的な免疫抑制剤となった。さらに、関節リューマチ、重症筋無力症、アトピー性皮膚炎にも効果があることが分かってきた。

これらの免疫抑制剤の開発については今の所ノーベル賞受賞にはなっていない。個人ではなく企業の開発、という背景もあるのかもしれない。大村先生は薬学部出身ではないが、薬学部教授もされておられたので、これをきっかけに薬学部への関心が高まって薬学部の受験生が増えるのでは思う。近く兵庫医療大学同窓会があり、薬学部の方々と会えるので、学生がどういう反応をしているのか聞いてみたい。

梶田先生のニュートリノのことは門外漢でよく分からないので、大村先生の話になってしまいましたが、改めてお二人のノーベル賞受賞に拍手を送ります。

 追記:大村先生はスキーでも国体選手であったとのこと。種目はノルディックの中のクロスカントリーである。雪の原をひたすら前を向いて20キロ30キロと走る過酷でストイックな競技である。ノーベル賞受賞と何か相通じるものがあるようです。因みに私はクロスカントリーは苦手でした。