2015年12月14日月曜日

再生医療の産業化、豪州のベンチャー企業は

 先週はストックホルムのノーベルウイークの様子が報道され、生理学・医学賞の大村教授と物理学賞の梶田教授の受賞式や晩餐会の様子は感銘深いものであった。また厳粛な式典の後の御二人の和やかな様子に日本中が楽しんでいた。山中伸弥教授がiPS細胞の発明で生理学・医学賞を受賞して3年になるが、その後はiPS細胞を使った再生医療が加速されている。神戸のポートアイランドは医療産業都市構想が進んでいるが、そのかなで理研の高橋政代先生の網膜iPS細胞移植も行われた。2例目が中々出来ないのでどうしたのかと心配されるが、次のiPS細胞移植は阪大で澤教授が心臓で実施と言われている。一方、iPS細胞の登場で再生医療の産業化は今や国際的にも急激に進んでいる。今回はオーストラリア(豪州)の話しとします。
先週になるが神戸は私の所属する神戸国際医療交流財団で、オーストラリア再生医療セミナー@神戸が開催された。主催はオーストラリア貿易促進庁(Austrade)とFIRM(再生医療イノベーションフォーラム、東京)で、協力として神戸の先端医療振興財団も含まれている。東京での開催に引きつづき関西は神戸で、ということである。セミナーと並列にビジネスマッチングの場も設けられていたように、豪州の再生医療ベンチャー企業5社が乗り込んで、ビジネス連携を進めようというものであった。日本の再生医療は臨床研究については法律を整備してスピード化を図り、また国も産業化への後押しをしている。そういうなかで、豪州の南端ビクトリア州のメルボルン・バイオハブが中心となっての日本企業との連携を探る、というものであった。セミナーに参加したが、在大阪豪州総領事のキャサリン・テイラーさん(女性)が流ちょうな日本語でイントロをされた後、5つのベンチャー企業がそれぞれの会社説明と再生医療のテクノロジーの開発とそれを基にしたビジネス計画を紹介された。
一つは臨床治験をもっぱら扱う企業で、専用の病院も持っていて、健康なボランテイアーを始め疾患では近隣の病院と連携した離床試験も引き受けている。時間やコストの面で海外からの参加もあるという。その他の4つの企業は主に幹細胞の大量作成技術を開発し、種々の医療への応用を始めている。細胞ソースとしては脂肪細胞とiPS細胞に分かれていたが、共に細胞分離から分化・増殖、そして大量生産を品質管理のもとで行い、臨床使用が出来る状態で配給出来るまで来ている。中でも驚いたのは、幹細胞研究自体が大変進んでいて(米国の大学とのコラボレーションもある)、それが産業化に繋がっているのである。この点では我が国はかなり遅れているのでは危惧する。その背景には、例えばビクトリア州(メルボルンが首都)ではメルボルンバイオハブを構築し、企業の研究開発費に対して43.5%の給付(税制上の優遇措置)を始め、ライフサイエンス企業が参集しやすいように州を上げて取り組んでいる。例えば阪大で何億円も国から資金をもらって臨床応用できる細胞内培養装置を作っているが、それをベンチャー企業が行っている、ということになる。日本では大学がベンチャー企業の代わりをしている、という訳である。
専門的になるが、再生医療の基となる幹細胞については、豪州企業では胎児から得られる胚性幹細胞ではなく、成人の体細胞(骨髄や脂肪)から得られる体性幹細胞のなかの間葉系幹細胞といわれるもので、操作によっていろいろな細胞に分化する能力を持った幹細胞が得られる。また、ある特定のホルモン(サイトカイン)を分泌するものも作成している。紹介された企業はこの技術を確立し、種々の臓器や組織の再生医療、さらに癌ワクチンまで作っていて、既に臨床応用が始まっているもののある。我が国では脂肪細胞の分離機器(輸入品)が売り出され、乳房再建やその他の疾患に応用されているが、企業化までは進んでいないし、再生医療の産業化はテルモ社の筋芽細胞シート位でまだまだ未熟である。
一番興味があったのは、CYNATA-Therapeutics 社のiPS細胞を使ったものであった。我が国ではある患者さんの皮膚などの細胞からiPS細胞を作って、目的とする細胞に変えてその患者さんに使うのが基本である。一方では、患者さんからの作成では制約があり、時間も掛かることから沢山の方から作っておいてバンクとして保存し、他人の細胞ではあるが患者さんの治療の使う方向に向いている。豪州ではそれに対して、一人の提供者(シングルドナー)からiPS細胞を作り、それからある意味逆の流れのようであるが種々の個別細胞となる間葉系幹細胞を作っている。今の日本で行われている技術とどう違うのか、私には理解で来ていないところもあるが、キーポイントは細胞提供者が一人で行える、ということである。シングルドナーとなる要件は分からなかったが、HLA(白血球型)を問わないとすれば画期的ではないか。勿論、その幹細胞は免疫的にはアロ(他人)であるが、この技術は産業化という点では強みと思われる。
再生医療の産業化はいろいろな国が進めているが、その先頭をきっているのが豪州ではないかと感じた。
以上、概要の紹介で、中途半端なことはお許し頂いたい。興味ある方は、それぞれの会社のHPをご覧になって下さい。
参加企業:Regeneus 社、 Cynata Therapuetics Ltd 社、CMAX (治験病院経営)

Clinical Stem Cells 社、そしてCell Therapies Pty Ltd 社でした。







下は、CYNATA社のHPから。




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