2015年12月9日水曜日

渡航心臓移植

 先日の産経新聞に、「海外心臓移植―高額化」、という記事があった(12月8日朝刊)。1歳女児の父、募金呼びかけ、とある。小さな子供さんの心臓移植は国内で小児のドナーが極端に少なく、海外に渡っての移植に望みを掛ける状況が長らく続いている。このことは法律が改正されてもあまり改善せず、さらに小児用の補助人工心臓(体外型)が保険償還されてからは待機患者さんが増えてこの問題はより深刻になりつつある。
米国での受け入れが決まっているのは1歳の心臓病の女児で、必要な費用が3億円を越え、募金集めが大変苦しくなっている、と報じている。家族は、可能なら日本で手術を受けたいが時間がない、と訴え、厚労省で記者会見をされたようである。補助人工心臓を装着して8ヶ月であり、これ以上の待機は血栓症や感染症で移植にたどり着けなくなる危険が高まる。ということで、産経の記者も募金先の電話番号を紹介している。臓器移植の国際ルールからは自国で完結すべき話しであり、しかも高額の費用が掛かる。いかんせん国内での小児のドナー少なく、渡航移植の話しは心臓移植の普及に関わってきたものとして大変心苦しいことである。そこには、筋論より現実論(人命救助)、が優先されるからでもある。
なぜそんなに高額なのか。そこには渡航航費(チャータージェット機)、入院費、検査・手術費、諸々があって全て自費扱いであるし、米国の医療費は日本の比ではなく大変な金額になる。最初にデポジットも要求される。受け入れ施設は海外の方への慈善事業とは全く考えない。頼れる施設はかってドイツもあったが、移植は自国でという国際会議での声明もあり、欧州は自国の患者さんだけに限るようになり、今は米国のみが受け入れてくれている。米国では5%ルール、というのがあってその施設の年間心臓移植の5%までは海外からの方を受け入れていい、というものである。しかし、傾向としては海外からの患者さんが移植を受ける道は狭くなってきている。記事でも、受け入れ国減少とあるが、国としては減っていると言うより米国のみであり、その中でも受け入れ施設が減っている、というのが正しいであろう。
ここからはマスメディアへのお願い、というかコメントである。募金をされている御家族の立場は十分理解し、お気持ちに配慮した上での話である。こういう募金がらみの時の報道、差し出がましいが、についての私見(お願いか)である。なお、これまでもこのような報道で、移植医療が進まない現状を訴えていることはよく理解している上での話しである。
まず、国内の小児を含めた臓器提供の現状を併せて解説して欲しい。そして国内の脳死ドナーが何故少ないか、特に小児での課題は何か(虐待、手続き、家族支援)の解説。できれば国内で心臓移植を受けた子供さんのプライバシー保護の上で、その後の経過や元気な姿、家族のコメント等紹介。こういうことがひいては、募金で対応することより国内での移植、につながると思うからである。
  産経新聞はこれまで明美ちゃん基金等で子供さんの心臓手術(海外からの子供さんも)への支援を長らくされていて感謝しているが、心臓移植では募金の支援に併せて上記のことを継続して(ここが大事)対応して欲しいと思う。それは臓器移植ネットワークや学会・研究会などの貴方達の仕事でしょう、と逆に言われそうであるが、新聞の力は大きいのです。脳死は人の死か、という前に脳死臓器移植は法律も出来、保険診療になっていることへの理解が大事と思います。

目の前の患者さんの命を救うのが医師の使命、という自分自身の生き方はどうなったのか、自問自答しないといけない課題でもあります。それにしても、「渡航移植・募金」、は我が国の臓器移植にとって重い課題としていつまで続くのか、移植関係者も頑張らないと解決しないと思います。

補足です。記事には、こういったことは国際問題になりかねない、という趣旨の警告の言葉もあることを追加しておきます。